犬を飼いたい
犬を飼いたい
昔からの癖、気をつけていないとずっと考え事をしてしまう
でも考える事は決まってしょうもないこと、あのときああしとけばよかったとか、あのときは嬉しかったなとか、あのときのあれは傷ついたなとか、過去のことをグダグダウダウダ、だから私は天才じゃない
考え事は何も楽しくない、忘れ去りたいことを思い出すし思い出したくないことを後悔する、何も考えたくないから毎日テレビをつけながらiPadでアマプラを再生しながら誰かのツイキャスを聴くし、電気を消して横になると考え事との一体一になって苦しいから、朝が近い深夜になると鎮静剤を飲んで強制的に眠る
最近、考え事をストップさせたいときは、深海に落ちてしまったイメージをするようにしてる
昔好きな人に、考えたくない物事を巨人に遠くまで投げてもらうイメージを教えてもらってしばらく実行してたけど、深海に落ちてしまったイメージの方が私にはしっくりきた
深くて深くて、光も届かない、真っ暗で何も見えない、何も聞こえない、深海に落ちてしまった、いくら泳いでも、どれだけもがいても、陸には戻れない、周りには何も無い、ここには私一人しかいない、もう陸には戻れない、戻れない、これはもう陸のことを考えても仕方がない、だって戻れないんだから、しょうがない、全部、何をしても無駄
そうイメージすると、力んでいた眉間の緊張がとけて、不思議な安心感につつまれる
昔からある自分の嫌なとこのもう一つは、他人があまりにも苦手だということ
子供の頃、親の知り合いに会うことが死ぬほど嫌だった
そろばんを習っていたが、やる内容は楽しいのにそこにいる人間に会うことがメチャクチャに苦痛で、火曜日と土曜日の20時が大嫌いだった
場面緘黙症もあり、家族と極小数の友達以外の人の前では一言も言葉を発せなかった
なんであんなに他人が苦手だったのか
人に見られていると何をしていいかわからなくなるというか、周りの子みたいに明るく振る舞うことができなくて恥ずかしいとか、そういうことを感じていた気がする
「愛想が悪い、濡れ雀みたい」って知らないおばさんに言われたことをずっと覚えているから
学校も嫌だった、双子だからいつも姉と比べられて、お姉ちゃんは二重で目がくっきりしてるけど妹ちゃんは、とか、お姉ちゃんは顔がシュッとしてるのに妹ちゃんは、とかって言われるから、姉に負けないように勉強とか美術とか運動とか他のこと頑張らなきゃいけなくて、頑張っても姉は可愛い、私は濡れ雀、姉は可愛いのにって言われても笑わなきゃいけなくて、
中学までは家族と同居していたから無理にでも学校に通ってたけど、高校生になって下宿生活が始まると学校に行かないという選択肢を自分で選べることに気付き、引きこもりがちになった
もう親の知り合いも、姉と比べてくる人もいないのに、ずっと他人が苦手だ
頭の中の愛想が良く可愛い子達と自分を比べては、あんな風に明るく振る舞うことが自分にはできない、また人に嫌な思いをさせる、という意識がずっとある
大人になってから、飲み会などでよく「変な子だね」と言われる
それは私を安心させる言葉だ
変な子って思われてたら、周りと同じことができなくても、あなたを嫌な気持ちにさせない
でも歳をとるにつれて頭の中の子達のフリはできるようになった、
いつもより明るい調子で可愛く返事、今関係ない話を唐突に始める、大袈裟に笑う、自分勝手なことを言う、ゲップやおならも笑いながら出しちゃう、
そうしたら周りの人は私を馬鹿だと思って可愛がってくれる
仏頂面で大人しくて愛想が悪くて濡れ雀の可愛くない私より全然いい
そんなことをずっと頑張っていると急にしんどくなってしまうからやっぱり他人が苦手
バイトも続いたことがない
業務内容は嫌じゃなくても、その場にいる人に会うことが嫌すぎて、最初の2ヶ月は頑張れても3ヶ月目には急に行けなくなってしまう
不登校だった頃、どうして学校に来ないのか訊かれ、なにか答えなきゃと思い、お腹が痛いと嘘をついていた
そしたらいつの間にか本当に、職場に向かおうとすると動けないほどの腹痛が生じる体になってしまった
最近は実働4時間で日給8000円、帰りは大好きな飛行機を見ることができる倉庫でのバイトをしていたが、ある日片道1時間かけて来た倉庫の目の前で腹痛が生じて、そのままバックレてしまった
犬を飼いたい
厳密に言えば、犬に会いたい
12歳のとき、突然実家に二匹の犬がやってきた
多頭飼育してる地元の知り合いの家から、父親が一歳くらいの双子の子犬を二匹もらってきた
双子なのに少し見た目が違っていて、毛がストレートで真っ白な方にはアレン、少し癖っ毛でグレーがかった色味の方にはセナと名付けた
布団の真ん中を取ってくるのがセナ、上に乗ってくるのがアレン
アレンもセナも布団に入ってきた日はすごく寝苦しいけど、でもそれはすごく幸せな時間だった
出掛けるときと帰宅したときはアレンもセナも玄関先まで走ってきれくれる
セナは人懐っこくて、座ってるとすぐ膝の上に乗ってくる
ご飯を食べてる最中にセナが膝の上に乗ってることに気付かなくてそのまま立ち上がって、セナの頭をテーブルにぶつけてしまったことが何回かある
それでもセナは懲りずに膝の上に乗ってくる
アレンは触ろうとすると噛み付いてくる、噛み付いてくるのが面白くてたくさん触ってたら顔をめちゃくちゃに噛まれたことがある、アレンは本当に元気だな
全然性格が違うけどすごく仲良しで、世界一可愛くて世界一大好きなアレンとセナ
高校進学で実家を離れてからは、年に一、二回しか会えてない
アレンもセナも誕生日はわからないけど多分いま14歳くらいで、セナはもう目が見えなくて耳も聞こえなくて歩けないらしい
会いたい
アレンとセナが奇跡的に絶対に死なない犬でありますように
二十歳を超えてから、数回自殺未遂をした
あの頃は理想の自分になれない自分のことが大嫌いでとても憎くて、そんな状態が毎秒毎秒苦しくて、抑えられないほど強い、消え去りたくてたまらない衝動に駆られていた
リストカットするやつは馬鹿だよ、同じくらいの痛みなのにピアスは飾りになる
と思って自分の体にめちゃくちゃピアスを空けてた
どちらも自傷、どんぐりの背比べ
歳を重ねるにつれて理想の自分というものが薄れてきて、今はただあの頃みたいに自分を傷つけたりしないで、苦しまずにたまに楽しいことをして息ができていたらそれでいいと思って暮らしている
ただ、あの頃の強い死にたさ、もう衝動的にピアスを空けたり精神薬をガブ飲みしたりするほどの苦しさはなくなったが、漠然とまだ、う〜っすらと死にたい
前進するためには、カーテンを開けて日光を浴びなきゃとか、夜よく眠れるために日中は縦にならなきゃとか、健康でいるために自炊を頑張らなきゃとか、汚部屋に戻らないために食器を洗わなきゃとか、散らかった状態を部屋のデフォルトにしてはいけないとか、もう自暴自棄にならないために残高を気にしながら節約しなきゃいけないとか、趣味があると鬱にならないらしいからアニメや映画を頑張って最後まで観ようとか、2日に1回以上は風呂に入らないと引きこもりだった頃の自分と同じ臭いがしてしまうとか、
自分のために頑張っていることが、ずっと、ずっと!
めんどくさい!!
でも、でも!
やり続けなきゃ過去の自分に戻ってしまうかもしれないという恐怖があって、それがとにかく、こわい!
ずっとずっと、うっすらとしんどい
私は頑張ろうとしなきゃ頑張れないな
小さい頃は勉強ができて絵が上手かったのでなんでもできる子と言われてた、高校生あたりからやればできる子と言われるようになって、いつの間にかなにもできない大人になっていた
未来は今の延長線上にしかないことに絶望する
人と比べたときの自分の頼りなさ?不甲斐なさ?社会性のなさ?社交性のなさ?足りないものばかり、自分の変なところたち、これはずっとずっとずっと続くからずっとずっとずっとこれを、解決できるように頑張ったり、逃げたり隠れたり隠したりラジバンダリしながら、これからもずっとずっとずっと、私は私のままで生きていかなきゃいけない、
そう思うと、なんで死ねないんだろ私?と思うことがあって
泥酔しながら夜道を歩いていると、隣を通る車に轢き殺してくれ〜!と思ってしまう
深海って、苦労のない穴なのかも
自分の服はいつも生臭く感じる
もう絶対に過去の自分に戻らないと自分に誓った日、生きるか死ぬかの選択は済ませた
生きていかなきゃいけないんだよ
生きてるんだから、生きていかなきゃいけない
生きていくには、生活を、ちゃんとしなきゃ、他の人みたいに、ちゃんと働いて、公共料金を滞納しないで、夜寝て朝起きて、野菜と米を食べて、人とは笑顔で会話する、毎日、毎日、絶望したって傷ついたって毎日、風呂に入って、部屋を綺麗に保って、食器は使うたびに洗って、洗濯とゴミと支払いは溜めない、それを繰り返すしかないんだよ、
お腹が痛くても働くんだ、日々は続くのだから
もしアレンとセナがいたら
自分のために頑張れないこと達の全部を、アレンとセナのために頑張れる気がするんだよなあ
頑張って生きていきたい